テスラの成長ドライバー⑩:メガキャスティング

メガキャスティングを通して、レガシーICEメーカーの車造りの限界が見えてきます。サプライチェーンに依存した車造りでは導入不可能なのが、メガキャスティングだからです。

 

メガキャスティングは、生産性の著しい向上、軽量化などなど利点も多いですが、一番の問題点は、投資コストの回収です。これほどの大規模投資を回収するには似たような型を使用して、100万台規模の生産が必要です。

 

1つのタイプもしくはその派生モデルで100万台生産しなければならないのです。レガシーICEメーカーが1モデルで100万台の生産を行うことは不可能です。

 

なぜ不可能なのでしょうか?それは彼らが採用してる生産戦略が多品種少量生産だからです。

 

なぜ多品種少量生産なのでしょうか。それは少品種大量生産では売れないからです。

 

なぜ売れないのでしょうか。

 

それは彼らの作る車がどれも「似たような」車だからです。少品種では差別化できないからです。

 

なぜ別々のメーカーが作る車が「似たような」車なのでしょうか。

 

それは彼らがホントの意味で革新的な車を作っていないからです。

いや作れないからです。

 

カップホルダーイノベーションという言葉を聞いたことがあるでしょうか。

 

新しいカップホルダーを導入した程度にすぎない改良を、さも革新的な技術であるかのように、喧伝することです。

 

既存のレガシーICEメーカーの車は、ほとんどがこのカップホルダーイノベーションに陥っています。

 

そもそも彼らの技術開発は、サプライヤーと呼ばれる部品提供企業に依存しています。

 

自分たちではほとんど新たな技術開発を行っていないのです。

 

サプライヤーの作った部品リスト、機能リストから、新製品のコンセプトに合いそうなものを適当に選んで、それを組み合わせて新しい車を「開発」しているのです。

 

これは「カタログ・エンジニアリング」もしくは内部的に企画を通すための「パワポ・エンジニアリング」と呼ばれています。

 

それが既存の車産業の「サプライチェーン」の実態です。

 

こんな仕組みから革新的な車が生まれてくるはずがありません。組み合わせなんて、だれでも思いつくことは一緒だからです。

 

どこも同じようなことをしているわけですから、メーカを超えて同じような車が「開発」されるわけです。

組み合わせの完成度をフィニッシュとか言っていたわけです。

 

また真に革新的なプロダクトはカタログエンジニアリングで作ることはできません。

真に革新的なプロダクトを作ることができれば多品種少量生産などする必要はないのです。

 

モデル数が少なくても消費者は支持してくれます。

  

テスラはシートすら内製化しています。

 

自動運転チップの設計すら内製化しています。

 

電池開発も内製化してます

 

ニッケル資源の確保から、サプライヤーに依存せずに自社で手を打っています。 

 

たとえば自動運転という機能を考えてみましょう。

 

ほとんどの完成車メーカーが、ルネサスR-CARとNVDIAのドライブAGXを用いて技術開発しています。

 

というか自動運転技術の開発すらホントの意味では行っていなくて、デンソー、コンチネンタル、ボッシュなどの開発した自動運転用ユニットを独自に「アレンジ」して車に載せているだけなのです。

 

同じようなハードを使って、似たようなソフトウェアを使いまわしていれば、似たような機能しか実現できないのは当たり前でしょう。

 

既存の完成車メーカーがサプライチェーンと称して、カタログエンジニアリングする限り、結果的にどこも似たような製品になるため、差別化するためには多品種少量生産にならざるを得ないのです。カップホルダーの改良をイノベーションとして喧伝するしかないのです。

 

そして莫大な広告宣伝費をかけて、ディーラーネットワークの販売網を活用して消費者に車を押し込んでるだけなのです。そうでなければ売れないのだから。

 

だから多品種少量生産、カタログエンジニアリング、サプライチェーン、ディーラーネットワーク、カップホルダーイノベーション、莫大な広告宣伝費これらはみんな共犯関係にあるのですね。

 

それをメーカーオプション・オプション、ディーラー・オプション、広告などで目くらましして、消費者に売っているわけです。

 

こんな車造りしているから、理系学生が完成車メーカーに入社して、絶望してやめていくのです。

 

 こんなところから革新的な製品が生まれてくるはずがありません。

 

 ほんとに革新的な製品を作っているのであれば、少品種大量生産で問題ないわけです。よって1モデルあたりの償却負担を少なくすることができて、メガキャスティングが導入できて、生産効率を劇的に上昇させることができるのです。

 

メガキャスは、償却費を回収したのちは、強力なコスト競争力へと転化します。

 

ま、テスラはメガキャスのための合金も新開発していますから、技術力や人材のレベルもそこらへんのOEMとは比べ物にならないくらい、超一流なのですけれども。

 

ろくに勉強もせずにパワポエンジニアリングにいそしんでる輩が、一流の頭脳がゼロベース思考で、己が限界まで挑戦し続けている組織の開発力にかなう道理もありませんが。 

 

これはパソコンは水平分業、自動車は垂直統合というフレームワークではうまく理解できない点です。

 

テスラの垂直統合から見れば、既存のICEメーカーは、垂直分業もしくは単なる水平分業でしかないからです。

 

日本の車づくりが垂直分業でしかないのに、垂直統合といわれてきたのは、株式の持ち合いに基づく、系列やグループ経営などで、統合度が高いように見えたからにすぎません。

 

つまり法人同士の準奴隷制によって見せかけの統合度の高さを実現してきたにすぎないのです。つまり実質的な主従関係で下請企業にたいして無理を通してきたのですね。現代の奴隷制です。

 

人権意識の発達した、また資本市場を通じた株主ガバナンスが発達した欧米ではそんなことはできませんから、結果的にICEの車づくりにおいては日本が有利だったというだけなのですね。

 

所詮日本の自動車産業は、人権意識後進国、資本市場後進国の強みを最大限に生かした「モノづくり」でしかなかったわけですね。村社会の奴隷制ですよ。

 

しかしテスラが真の垂直統合に基づき、ゼロベースから革新的な製品を大量生産するミッションを実現してしまいました。それがゆえに、日本企業の「統合度」の底の浅さが明らかになってしまったのです。

 

既存の車メーカーがテスラに絶対に勝てない理由がおわかりでしょう。

 

テスラに立ち向かうには、サプライチェーンをかなぐり捨てて、彼らの車づくりの根本から変えていかなければ、ならないからです。そもそもそれをなしうるエンジニアの人材プールがありませんし、株も持っておらず退職金のソロバンをはじいているようなサラリーマン社長たちが支配している既存の車メーカーにそんなことできるわけありません。

 

テスラは、既存のCEOたちが考えもつかなった競争をしかけてきてるのです。

 

また仮に根本的にビジネスモデルを変えることができたとしても、テスラに追いつくまでにどれほどの時間と投資を必要とするのでしょうか。そして現在のテスラのレベルに到達したときに、テスラはどれほど先に行っているのでしょうか。

 

トヨタのCEOが情けない発言を繰り返すのもいたしかたのないことです。

目くらましのチョロQを言い訳程度に発表するのも致し方のないことです。 

 

もう彼にできることはそれだけなのですから。

 

もはや彼らにできることは、自分たちの退職金が出るまでで、きるだけ時間稼ぎをして、あわよくば水素かなんかの神風が吹いてくれることを祈ることだけです。

 

 日本の産業の将来?

 

考えてるわけないじゃないですか、考えてたらこんな惨状招いてないですよ。