ウォール街のプロが教えるGSアップグレードの舞台裏

水曜日にGSアナリストによる71%もの目標株価のアップグレード($455→$780)を受けて、アフターで3%ほど上昇したテスラ株ですが、その舞台裏をゲーリーブラックさんが暴露してくれています。

www.fool.com

 

一言でいうと、ベンチマーカー焦ってるぅ!

 

ベンチマーカーとは、インデックスファンドとは異なりアクティブファンドではあるものの、S&P500などのインデックスをベンチマークとして、そこからのパフォーマンスで報酬を受け取る、ファンドマネージャーのことです。

 

その規模はS&P500インデックスファンドに匹敵するともいわれています。ただ彼らはアクティブファンドなので、テスラをポートフォリオに入れる義務はありません。

  

しかし、今後ベンチマークが1.5%もの比率でテスラを組み入れるときに、その株を全く所有していない場合は、顧客に説明が必要です。また、テスラをアンダーウェイトするということは、テスラをファンドのパフォーマンス上ショートしていることになります。またルール上一銘柄あたりのショートキャップが設けられていることも多いです。

 

よって、テスラを組み入れないということ。これはこれでベンチマーカーにとっては大きな賭けなのですね。

 

ではどれほどのアクティブファンドが、すでにテスラをポートフォリオに組み入れているのでしょうか?

 

このブルームバーグの記事によると

 

Tesla’s S&P 500 Entry Takes Away Secret Weapon for Stock Pickers

https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-12-02/tesla-s-s-p-500-entry-takes-away-secret-weapon-for-stock-pickers

 

”Not many of the 215 active managers with at least $500 million in assets whose funds are indexed to the equity gauge have ventured to invest in Tesla. But the 21 who have are richer for the move.”

 

500ミリオン以上のアセットを持つベンチマーカー215のファンドのうち、わずか21ファンドしか、テスラ株を持っていないようです。10%ですね。残りの90%のファンドはテスラを持ってません。

 

これは無理もない話で、彼らの眼が節穴というわけではありません。これらのファンドのほとんどはバリューオリエンティッドなので、テスラのフォワードPE見てビビッてしまうのです。

 

またそのPEを正当化するストーリーを手に入れるインセンティブもなかなか生まれません。なぜならS&P500に入っていなかったということは、ベンチマークの対象外であるので、その株がどのように動こうが自分の評価・報酬には影響しないので、注目する必要もなかったからです。

 

ところが。。。  

 

ウォール街出身のプロの中ではNo,1のテスラフォロワーのゲーリーさんのところに、「ゲーリーさんのモデルをファンドマネージャーに送っていいか?」と、アナリストから複数の問い合わせが来ているようです。

 

つまり、アクティブポートフォリオマネージャーたちは、アナリストに(今さら)テスラの情報集めさせてる真っ最中なんですね。

 

でS&P500入りを含めたこの状況を、絶好のチャンスとみなしたのが、GSのアナリストのマーク・ディレニーです。彼はテスラの目標株価を外しまくってきたので、投資家の信頼は薄いのですが、ビジネスチャンスは逃さないようです。

 

アナリストのインセンティブは手数料です。アナリストは顧客がGSにもたらした手数料をベースに報酬を受け取ります。(また取引手数料のみならず、アクティブファンドが保有したテスラ株をショートに貸し出すことによる金利の鞘取り収入からの報酬も見込めます。)

   

 

 

このアップグレードを受けて、営業部隊が一斉に電話をかけ始めます。まずは一番手数料を落としてくれるクライアントからです(フィデリティなど) 。でアップグレードやテスラの素晴らしさについてまくしたてます。

 

 

GSのクライアントのほとんどは、テスラ株を持っていないので、意思決定に使えるレベルのテスラの情報がありません。で「バイサイドのリサーチチームの手助けします!」「モデルの作成やカンファレンスコールで手助けすします!」などなど、あれこれオファーするわけです。

 

でクライアントがテスラポートフォリオにを採用すると決めれば、GSを通じて取引するよう仕向けるわけです。

  

 

つまり、マークディレニーなどのアナリストの報酬は、彼のリサーチがもたらした手数料とダイレクトにリンクしているから、このタイミングで、このようなアップグレードが起こるのです。

 

ちなみにS&P500入りを目前に、テスラが増資をする可能性に賭けて、その引き受けを狙い、テスラをアップグレードしたのではないかと邪推する向きもあるのですが、ゲーリーブラックさんは、その意見を一蹴しています。

 

そもそもアナリスト業務と引受け業務は完全に分離されているので、アナリストのアップグレードで引受けがスムーズに進むようなインセンティブ設計ではないのです。

 

 

このような大きなアップグレードは、GSの営業チームにとっては大号令で、みんな目の色変えて電話している真っ最中でしょう。テスラ程取引量が多い株がS&P500入りとなれば、それに伴う手数料のアップサイドは莫大です。

 

 

で結局のところベンチマーカーたちはどのくらい買ってくれるのでしょうか?

 

これは株価に応じて現在進行形で変わっていくのでなんともいえません。

 

ただ高いから買わないという選択肢がなかなか取りずらい状況にベンチマーカーたちが追い込まれているというのは事実でしょう。

 

フロントローディングするのか、S&P500入り後に徐々にポジションを増やしていくのか、まんべんなく買っていくのか。いずれにしてもアクティブマネージャーたちも買い出動しなくてはならなくなっています。

 

S&P500入りの後の「ニュースで売れ」でポジション増やしたいベンチマーカーは多いでしょうが、どうなるでしょうか。

 

少なくともQ4決算の前にはある程度買っておきたいベンチマーカーは多いはずです。

 

ちなみにブラックさんの相場観は

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S&P500インクルージョンで$650~$690で、そのあと2週間で10%~20%の調整があるというものです。

 

もし$700から20%調整すれば$560ですからね。

現状の株価はブラックさんによりれば、このイベントに関してはいいところまで織り込んでいるということになります。

 

ただ金曜日にブラックさんは目標株価を上方修正しました。

 

$720→$830(今後6~12か月以内の目標株価)

 

これはテスラの、10月までの今年のEV市場におけるシェアの上昇(17%→25%)を受けてのものです。

 

この株価を一気に織り込みに行くのか、徐々に織り込みに行くのか、いずれにしても要注目です。